引っ越し、あるいは家の新築や土地購入を考える際、最初に住みたい家の様々な「条件」を挙げて、その条件にできるだけ近い物件を絞り込む・建築計画するというのがオーソドックスなスタイルですよね。
「条件」には、家賃や建設費などの費用面をはじめ、住宅の広さや部屋数・収納力、駅からの距離のほか職場や病院・スーパーへのアクセスの良さなどといった利便性、治安の良さやセキュリティ面、子供のいる家庭の場合なら教育環境の充実などなど、住む人・住む家族ごとに家選びの条件には違いがあります。
そんななか、これまで家選びの「条件」に挙げられることが少なかった(挙がっても優先順位が低かった)のが「防災」という視点です。
しかし近年、頻繁に大きな災害が全国各所で起こっていることを考えると、これからの住まい選びには「防災視点」が、大切な条件のひとつになってきます。
今回は、いざというときに命を守り切ることができるように、防災という観点からの住まい選びについて考えていきましょう。
この記事の目次
防災視点で見たときの家選びの条件・ポイントとは
まずは防災という観点から、家選びを考えるとき、条件として挙げられそうな項目を考えてみましょう。
ざっくりと箇条書きにすると、以下の4点になりそうです。
- どこに住む?(場所選び)
- 何階に住む?(高さ選び)
- どんな構造の建物に住む?
- 住む家にはどんな設備が必要?
それぞれの項目に対して、我が家なりの条件を出していくわけですが、このとき注意したいのは、災害の種類によっても住まい選びの条件は変わってくるということです。
例えば、浸水被害を考えれば、タワーマンションの最上階ならまず室内浸水の恐れはありません。
しかし、大地震時のエレベーターが使えない状況での避難や、その後の避難生活を考えると「小さい子供を連れて(抱っこして)最上階まで非常階段を昇り降りする」ことがかなり困難です。
火災時は超高層マンションの上層階まで届くはしご車(消防車)がないという現実を考えると、すべての災害について「高ければ、高い階ほどいい」とも言い切れなくなってしまいます。
挙げた例は極端ではありますが、水害、地震、火災、雪害などあらゆる災害に万能で、絶対安心と言い切れる家を探すのは、予算面や勤務先などの事情を併せるとかなり困難と言えるでしょう。
しかし、自分が住むことになる地域は、どのような災害に遭う可能性が高いか(災害特性)を十分に考慮したうえで、なるべく安全な場所、安全な高さ・構造・施設などの条件を頭に入れて、防災的にベターな家選びをしたいものです。
次からは、項目ごとにどのような点に注意して家選びをすべきか解説していきます。
災害の種類ごとに、重視すべきポイントが異なる場合がありますが、そのときは住む地域の災害特性から、優先順位をつけてチェックしていくとよいでしょう。
*なお、住まい選びの条件のひとつである「場所選び」については、こちらの記事で詳しく解説しています。 家を購入する・新築することになったら「どこに建てるか」は非常に大きなポイントになります。 勤め先や子供の学校へのアクセスや所要時間、病院や学校、スーパーなどの生活上必要な施設が周辺にあるかどうか、その ... 続きを見る
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「何階に住むか」は悩ましい家選びのポイント
マンションなどに住む場合は「何階に住むか」も住まい選びの大きなポイントになります。
たとえば「周囲に建物があっても日当たりが良く、展望も楽しめる」高層階、「子供の足音や騒音が比較的響きにくい」低層階というように、防災面以外でも希望条件は家庭ごとに異なります。
防災面から見た高層階のメリットとデメリット
merit
- 防犯面で優れている
- 津波や浸水被害のリスクが低い
demerit
- 停電時の避難・移動が大変
- 14階以上は消火活動が困難
- 地震の揺れが大きくなったり長引いたりする
外から比較的侵入しやすい低層階に比べると、高層階は防犯面では優れているといえます。
また、高層階であれば、津波や浸水被害のリスクは低くなるでしょう。
一方で、災害によって停電などが起こった場合、超高層階に住んでいるとエレベーターが止まってしまうので避難が難しくなり、災害後の生活も階段を利用することになるとかなりの不便を強いられそうです。
また火災時、消防車のはしご車は最大地上高が30m~40mのため、最大で14階くらいまでしか届かず、消火活動が困難になります。
高層マンションの場合は縄梯子や非常階段など、各種避難設備が備えられてはいますが、いざ火事が起こったとき、救出・消火活動が消防車では難しいというのは、不安な面でもあります。
また、高層階マンションの場合は大地震が起きても建物が倒れないように、耐震、制振、免振などの構造的な地震対策が取れていますが、構造によって大地震のときの揺れ方が違います。
東日本大震災の際は、耐震構造(揺れるが倒れにくい)のビル・マンションの高層階で大きな揺れがいつまでも続き、室内のダメージが大きくなったり、地震の揺れによる『地震酔い』の経験談が多く寄せられました。
防災面から見た低層階のメリットとデメリット
merit
- 自分の足で避難できる
- 地震の揺れが高層階より小さい
demerit
- 浸水や逆流のリスクが高い
災害によって電気などのインフラがストップしても、自分の足でさっと避難することができるのが低層階の最大のメリットです。
停電でエレベーターが止まってしまっても、数階分階段を下りれば、屋外へ逃れることができます。
高層階に比べると地震の揺れも比較的小さいようです。
しかし水害を考えると、低層階はリスク大といえます。
浸水被害を直接受ける場合も多いですし、下水・排水のあふれで室内が汚水まみれになる被害は、低層階のほうが大きいようです。
また、地下・半地下階にある住居やトランクルーム、駐車場は、浸水リスクがかなり大きくなります。
防災面を考えて家選びをする場合は、半地下・地下の物件は避けたほうがよいといえるでしょう。
防災視点からの家選びは「構造」にも注意!
防災を考えるとき、家選びで注意したいのはその「構造」です。
同じ場所に建っている家も、その構造によって防災リスクは大きく異なります。
ここでは一戸建てとマンションのような集合住宅を分けて、防災に影響する構造を学んでいきましょう。
防災面で注目したい一戸建ての構造ポイント
一戸建ての構造を防災視点で見る場合、基礎工法の種類や建物自体の構造、そして「新耐震基準」をクリアしているかどうかが大きな注目点になります。
基礎工事の種類と防災リスク
家の土台となる「基礎工法」には、主に次の3種類がありますが、弱い地盤の土地に家を建てる場合は、ベタ基礎や基礎補強などの工法が取られていると安心です。
布基礎
もっとも一般的な一戸建て住宅の基礎工法。
建物外周部や内部の構造的に必要な壁の下部に配置されている基礎のこと。
鉄筋の周囲を幅12~15cm、高さ45~60cm程度のコンクリートで固める工法です。
地盤が強い土地の場合は、この工法で問題ありません。
ベタ基礎
建物の底板一面を鉄筋コンクリートで支える基礎工法のこと。
地盤が柔らかい場合や、構造をしっかり安定させたい場合に行います。
基礎補強
布基礎、ベタ基礎などだけでは建物を安定して支えられない軟弱地盤の場合に、地盤自体を補強する工法のこと。
セメント系の硬化剤と敷地の土を混ぜて地盤を固くする「地盤改良」と、柱状に地盤改良した改良杭や鋼管杭、鉄筋とコンクリートで柱状にしたコンクリート杭を打ち込む補強法などがあります。
建物自体の構造 木造VS鉄骨
日本の家屋の構造は、木造と鉄骨造のふたつが代表的です。
木造は、日本古来の木の持つ温かみを重視した構造ですが、耐火・耐熱という点では、あまり強くはありません。
もうひとつの鉄骨造は、熱で変形しやすいという特徴はあるものの、鉄骨に耐火被覆が行われていれば、火災などによる熱への強度をあげることができます。
中古物件を購入・賃貸する場合は「新耐震基準」を満たしているかチェック!
最大震度5を記録した1978年の宮城沖地震で、倒壊したブロック塀や門柱のほか、家屋が倒壊して犠牲者が出たことにより、建築基準法が見直され1981年に「改正建築基準法」が施行され、この耐震基準は「新耐震基準」と呼ばれています。
これに対し、それ以前の耐震基準は「旧耐震基準」と言われます。
1981年以降も建築基準法や耐震基準に関する法令は、何度も小さな改訂が行われていますが、基本はこの「新耐震基準」です。
新耐震基準を満たしていれば、震度5強程度の中規模の地震ではほとんど損傷をうけず、震度6強~7程度でも倒壊・崩壊しない耐震性だといわれています。
古いマンションや民家物件をリノベーションするのがブームですが、既存の建物については「新耐震基準」を満たしているかどうかをしっかり調べ、この基準を満たしていない場合は、必要な補強工事を行うことが必要です。
一戸建てポイントまとめ
- 弱い地盤の土地に建てる場合は、ベタ基礎や基礎補強などの工法が取られていると安心
- 鉄骨造+耐火被覆なら火災への強度があがる
- 古い物件を購入する場合は「新耐震基準」を満たしているかチェック
防災面で注目したいマンション等の構造ポイント
次に、マンション等の構造についても見ていきましょう。
マンションは鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造がほとんどなので、木造などの一戸建てに比べると比較的災害に強い特徴があります。
注目したいのは耐震技術や形状などです。
耐震技術 耐震・制震・免震構造ってどう違う?
鉄筋・鉄骨造のため堅牢なマンションは地震に強いと言われますが、耐震技術としてマンションの広告にも盛んにうたわれている「耐震」「制震」「免震」などの構造は、どのように違うのでしょうか。
耐震構造
耐震構造については、国の定める基準があり、マンションも戸建て住宅もこれを守って設計・施工することが義務付けられています。
耐震構造とは壁や柱を強化したり、補強材を入れることで建物自体を強固にして、振動による損壊などを防止する構造のことです。
1981年以降に建てられたマンションであれば、同年に施行された「新耐震基準」をクリアしていますから、ひとまずは安心というわけですね。
以下の「制震構造」と「免震構造」は、耐震構造がベースとなって、さらにオプションとして建設業者が取り入れている新しい耐震技術です。
制震構造
建物内に「ダンパー」と呼ばれる振動軽減装置を設置して地震のエネルギーを吸収させ、ふり幅を小さくして建物本体へのダメージを減少させる技術。
建物に粘りを持たせて振動を抑えます。
免震構造
建物と地面(基礎)の間にローラーや積層ゴムなどの免震装置を設置して、建物を地面から切り離すことで振動を受け流し、揺れを伝えにくくする技術のことです。
どの工法も、建物自体の損壊を防ぐという点では優れていますが「免震」の場合は、建物内の揺れを軽減するという利点があります。
これにより家具の転倒などの被害を最小限に食い止める効果があります。
ただし免震構造の場合は、台風などで強風にさらされた際、揺れを感じる場合があるようです。
マンションの形状も防災に関係あり!
内閣府HPの防災情報のページ「みんなで減災」の防災Q&Aによると、マンションの形状も、防災に大きく関係するようです。
低層部が広がっていて高層部が後退して小さくなっている建物や、平面的な形がL字型の建物の場合には、地震が起こると建物の揺れ方が均一ではなくなり、部分的に強く揺れる箇所が生じやすくなります。
また、1階が商店や駐車場になっている場合には、住居部である2階以上に比べて壁が不足がちになり、地震などで大きな衝撃を受けると、1階に変形が集中して被害が出やすくなります。
阪神大震災や東日本大震災でも、1階が駐車場だったマンションの1階部分がつぶれて建物全体が傾く映像をよく目にしました。
また片面に窓が多く逆の面に壁が多い場合には、壁の平面的なバランスが悪くなり建物がねじれやすくなります。
そういう意味では、あまり面白みのない直方体の低い建物が耐震的には無難だといえそうです。
集合住宅ポイントまとめ
- 新耐震基準をクリアしているかをチェック
- 「耐震」は基本的な構造で、倒壊しないためのもの
- 「制震」と「免震」は揺れを軽減してくれるもの
- 直方体に近く、低めで、壁のバランスが良い建物を選ぶ
あると心強い防災設備・建材も家選びの大切なポイント
建物自体以外にも、家の防災設備の有無によって、防災リスクは大きく異なります。
防災面から家の設備や建材についてみていきましょう。
日差しがたっぷり入る大きな窓にはしっかり防災対策が必要
大きな窓から日光が気持ちよく入るリビングはとても快適ですが、これを実現するなら防災対策も欠かせません。
特殊フィルムを挟み込んだ防犯ガラスは、台風や地震によるガラス飛散の防止に役立ちます。
また火災対策なら、網入りガラスのほか防耐火ガラスなども有効です。
これからは雨戸やシャッターも必須に?
全国的に台風被害が増えている近年、一時期敬遠されがちだった雨戸の長所が見直されています。
窓ガラスを飛散物や強風から守ってくれる雨戸やシャッターが、各部屋の窓にあると安心です。
最近は、日中は採光や通風が確保でき、夜間はしっかりしめて防犯対策も万全な電動開閉式のブラインド兼シャッターなども開発されています。
壁の厚さは防音だけでなく防災対策にも重要
マンションの場合は、壁のコンクリートが厚いほうが、火災時に隣家などからの延焼を防ぐことができるほか、地震の際の建物の耐久性があがります。
もちろん、騒音対策にも役立ちます。
また外壁材も耐火性や対候性の高いものを使用されているかどうか確認しましょう。
外壁材の耐火性能によっては、火災保険料が割安になる場合もあります。
さらにできるなら外からは見えない外壁下地材にも注目しましょう。
地震や台風の時に、建物にかかる力を受け止める外壁を、面で支えてくれる下地材はその力を分散して壁の強度を上げてくれたり、防火・耐火性が高かったりなど、性能の高いものがおすすめです。
屋根の素材も火災・地震の被害を左右する
地震被害が多い近年、従来の瓦ではなくより軽量化された屋根材が注目されています。瓦屋根に比べると3分の1程度の軽さで、耐震性が高く、耐火・耐久性も高いグラスファイバーを芯材に用いて表面にセラミック焼付塗装を行った屋根なども開発されています。
その他の防災に役立つ設備
家を新築したり、賃貸の物件を検討する際、以下のような設備があればより防災レベルの高い住まいになります。
防火・防排煙設備
防火・防排煙設備とは、火災が発生した際、炎や煙が広がるのを防ぐための設備です。
防火扉や防火シャッター、防火ダンパーや排煙口などがあります。
避難誘導設備
火災が発生したら、建物内の人々が安全に屋外へ避難することが重要です。
これをサポートする設備を避難誘導設備といいます。
避難ロープや避難タラップなどの避難器具のほか、避難口誘導灯、誘導標識などがあるといざというとき安心です。
消火設備
火災が起こったとき、できるだけ素早く消火して、鎮火する・延焼を防ぐための設備が消火設備です。
消火器のほか、室内の天井部分に取り付けるスプリンクラーなどがあります。
実際に家選びをしたママたちの経験談
ここまで防災視点での家の選び方をご紹介してきましたが、ほかにもたくさん条件はありますから、十二分に安全な家をチョイスするのは、なかなか難しいというのが本当のところ。
そんなとき上記のポイント以外に参考にしたいのが、実際に家選びをした人の経験談です。
住みたいと思っている地域に昔から住んでいる人、狙っているマンションに住んでいる人、購入しようと思っている地区に引っ越してきた人などの声は大変に参考になります。
また、住む地域や場所、住居の形態は違っても、小さな子供を持つ先輩ママの経験談も非常に参考になります。
そこで最後に、いくつか家選びについての先輩ママの経験談をご紹介します。
憧れのタワーマンション高層階も、地震時は……
夫の転勤で1年半、都心のタワーマンションの高層階に住みました。
おしゃれでとてもうれしかったのですが、地震のときは怖かったです。
大きく横揺れしていつまでも揺れが収まらないし、地震を察知したエレベーターは地震発生時から、業者の点検が済むまでストップ。
地震後に子供を抱っこして買い物に行ったときは、階段で24階まで昇り降りしなければならず、本当に大変でした。
今は、地元に戻ってきていますが、自分たちで購入するならタワーマンションやマンションの高層階は絶対にやめようと夫と話しています。
全面リフォーム済み、で購入したのに補強工事が必要になった
リフォーム済みの中古住宅を購入しましたが、入居後、新耐震基準を満たしていないことがわかり、不動産屋さんとトラブルになりました。
交渉の結果、費用の7割を不動産会社が持つという条件で補強工事を行いましたが、残り3割とはいえ工事費用を負担しなければならず、そもそも交渉に時間がかかったのが辛かったです。
よく調べて買えばよかった。
子供がいるから1階を、と思ったけれど
マンションを購入するとき、子供が0歳と3歳だったので、騒音のことや庭があることを考えて1階がいいと夫と話していました。
ところが近所に住む夫の両親が大反対。
『この辺りは、台風の通り道で床上浸水の被害もよくあるし、1階では空き巣被害も心配。子供が小さいのは数年間だが、住むのは一生なのだから、せっかくマンションに住むなら、もう少し上の階にしたほうがよい』と。
自分たちの状況をよく考えて選んだつもりでいましたが、やはりその地域に長く住み人生経験も豊富な人の意見はためになると思いました。
義父の「趣味の部屋」が水浸しに
退職を機に、夫の両親が家を建て直したのですが、その際、平屋にする代わりに地下に防音設備のあるシアタールームと物置を作りました。
シアタールームは義父の長年の夢だったそうですが、家を建て直した半年後、台風で地下部分は全浸水。
義母が大事にしていた着物も地下の物置に保管していたので、全部ダメになりました。
よほどの高台でない限り、地下は作らないほうがよさそうです。
マンションだから台風には強いと思ってたけど
子供のころ、実家が強風で屋根が飛ぶ被害を受けたので『住むなら絶対、マンション』派でしたが、先日の大きな台風の時は少し後悔しました。
リビングは全面ガラス窓なんですが、シャッターも雨戸もないので、強風や飛散物で窓ガラスが割れるんじゃないかと心配で、その日の夜は一睡もできませんでした。
今、後付けでリビングだけでもシャッターがつけられないか、調べているところです。
まとめ・我が家流の家選びで重視すべき防災条件・ポイントをピックアップしよう!
家選びの際、防災面での条件を検討するという視点は、これまであまりなかった視点です。
でも長い時間を家族で過ごす家を選ぶなら、便利さや快適さ、予算に合うかどうかと同様に、安全であることは欠かせません。
新築、中古物件の購入、賃貸物件への引っ越しの際は、必ず防災面の条件もリストアップして検討したいものです。
家選びの際には、多くの人の経験談や地域の災害に関する話も聞いて、防災面でも安心な家選びができるとよいですね。