今回のスペシャルインタビューは、モデルであり2児のママである西山茉希さんにお話を伺いました!
デビュー直後、新潟県中越地震で被災した経験をもつ西山さん。
不便な生活の中には、現在の子育てや防災にもつながる、家族とのあたたかいエピソードもありました。
現在は東京で働くママでもある西山さんですが、もしも首都直下地震が起きたとき、心配なのはやはり「子どもに会えない」こと。
同じように都内に勤務している、編集部のママたちも特に気にしているところです。
ママの負担を減らしつつ、子どもと楽しく備えるにはどうしたらいいのか、一緒に考えていただきました!
お話を伺ったのは…
この記事の目次
バイト先で被災、車中泊生活…中越地震を経験して
2004年10月23日に発生した新潟県中越地震は、最大震度7を記録し、中越地方を中心に大きな被害をもたらしました。
西山さんも故郷の長岡市で被災し、帰宅困難や車中泊を経験した一人です。
当時の出来事を振り返りつつ、いまに繋がる学びや想いを教えていただきました。
人との繋がりのおかげで乗り越えられた
ご経験を踏まえて、いま必要だと思う備えは何ですか?
まず必要なのは、覚悟だと思います。
物をいろいろ備えるのも大事だけど、備えがある場所で被災するとは限らないですから。
私自身、被災したのはバイト先でした。
突発的な縦揺れで、「地震だ!」と思った瞬間に物がどんどん落ちてきて…。
何もできずに、なぜか地面を押さえようとしていました(笑)
これほどの出来事が一瞬で起きるんだ、という覚悟をまずしておいた方がいいと思います。
そして、家にすら帰れない状況の中では、「いかに人と繋がって助け合えるか」が何より大事で、乗り越える力になっていましたね。
窮地に立った時の人間って、日頃見ている姿とは全然違います。
でも、限られた食料のゆずりあいだったり、見知らぬ方に電源を貸してもらったり、そんな時だからこそ感じられる優しさもありました。
子どもたちにも、思いやりや想像力を持ってほしいなと思いますね。
「災害が起きました。あなたはお菓子を一箱だけ持っています。どうする?」って聞いてみたりして。
きっと正解はないけれど、いろいろな発想ができるような「もしも」の話をするのはおすすめしたいです。
「言わないと伝わらない」も正しいけれど、言われなくても何かしてあげられる子であってほしいと思います。
「後悔ないように楽しく」西山家流の過ごし方
1週間くらいは車中泊でしたね。
不安な夜が続きましたが、「来るときは来るから、最後だと思って楽しもう!」という父親の教えのもとで過ごしていました。
一時期は、食事もごちそうみたいだったんですよ。
少しずつ食べていたら傷んでしまうし、明日何があっても後悔しないように!って、とっておきだった食材も遠慮なく食べていました。
被災体験としてはちょっとポップすぎる話かもしれないけど、うちの家族らしいな、って安心できましたね。
でも面白い話もあって。
父は建築会社に勤めていて、車の中に1つだけヘルメットがあったんです。
どーんと構えていたはずなのに、それをちゃっかり一人でかぶってたんですよ!(笑)
ずっと家族の笑い話になってますが、考えてみれば、車の中にもいざというときの備えは必要ということですよね。
転機となった、母の言葉
ちょうどモデルのお仕事をはじめたてで、東京まで夜行バスで通っていた頃だったんです。
でも当然バスには乗れず、飛行機もキャンセル待ちで…。
そんなとき、母が「せっかく笑顔でいる仕事についたのに、この環境にいるのはあまりにも酷だから、お兄ちゃんがいる東京に行きなさい」って言ってくれたんです。
その時は「嫌だ」って思っていました。余震がまだ続く中で、自分だけ逃げるようなことしたくないって。
でも、結果的にそれが大きなきっかけになった。
現在だけを切り抜かない母の目線はすごいなと思いました。
そばにいることだけが愛情ではないですよね。
もし自分だったら娘たちの人生のためにどんな選択をさせてあげられるか、どう背中を押すか…常に振り返っています。
できそうでなかなかできない決断だと思います。
都会で働くママの防災の難しさ
そんな経験を経て、人気モデルとなった西山さん。
現在は、二人のお子さんを育てながら働くワーキングマザーでもあります。
「もしもの時、当分子どもに会えない」「子どもが留守番を嫌がる」などなど、悩ましいワーママの防災事情について、一緒に考えていただきました!
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「ママは帰れない」子どもにどう伝えたら?
ワーママの防災って、正直、「難しいな」っていうのが率直な気持ちです。
特に東京では近所の繋がりもハードルが高いですし、家族が日中離れている距離も、やっぱり地元の感覚とは違う。
東日本大震災のとき、私は都内にいたんですが、一気に動けなくなりましたよね。
電車は止まるし、道路もめちゃくちゃ渋滞するし…。
だからもしもの時は、我が子に会える確率すらとっても低いんじゃないかって思います。
お子さんに、「何かあったらママはお迎えに行けないよ」みたいな話はされているんですか?
私も、よほどの奇跡がなければ当分会えないだろうと思ってます。
「何かあったら大人を頼るんだよ」といった話はしますが、自分が覚悟している「会えない、帰れない」という部分までは伝えてないですね。
お子さんの性格や親の判断次第だと思うけれど、そうなる前からさみしい思いをさせない方がいいかなって。
「ママがいない」っていう状況自体は、日常の留守番でもう体験していますしね。
それに、「大きい地震が起きたら…」と言葉で説明しても、気持ちで理解するのがまだ難しいんじゃないかと思うんです。
お迎え訓練とかもありますけど、まったく違う状況だから。
留守番を楽しい時間に
私自身、母親がいつもいる環境で育ってきたので、どう手を離していけばいいのか迷います…。
西山さんは鍵っ子だったんですよね。当時を振り返るといかがですか?
もちろん、家にいつもママがいる友達がうらやましかった気持ちもありました。
でもその分、自分の家でもたまたま珍しくママが家にいて、おやつを作って待ってくれていた日の喜びは格別でしたね。
男の子だったら、ゲームを「お留守番中は好きなだけやっていいよ」って渡して、楽しい時間に変えてあげるのはどうですか?
終わったら「もう帰ってきちゃったの?」って思えるような、不安をかき消せる楽しみがあるといいですよね。
同じことで悩んでいるママも多いと思うので、ぜひ教えてあげたいです。
いざというとき、「非常食」は食べられない
レンジであたためることや、言っておいたものをちゃんと食べることはできます。
電気やガスが止まってしまったときには、そうはいかないですけど…。
究極、そうなったらお菓子を食べていてもいいんじゃない?と思っています。
留守番中も子どもの心に寄り添えるものとして、ふだんからお菓子は多めに置いているんです。
中越地震のときに、冷蔵庫いっぱいに入れてあった食材も、停電すれば意味がなくなってしまうんだって学びました。
その点、お菓子は「常温でも日持ちする」という側面もありますよね。
それに、極限の状況では、食事の形式や栄養にこだわっていられませんでした。
ママが帰るまでの1、2日を生き延びてもらうと思ったら、細かいことよりも日常に近い喜びを大事にしてあげたいです。
「最悪お菓子でいいんだ」って備えはじめたほうが、次のステップに進みやすいですよね。
お菓子ならほぼどの家にも絶対ありますから(笑)
缶詰や乾パンがあったとしても、子どもたちはきっと食べ方すらわからない。
だから非常食は普段から練習を…ってよく聞くけど、正直それって簡単なことではないと思っているんですよね。
だったら、お菓子や乾物みたいに、食べ慣れたものをストックしておいたほうが手軽ですし、子どもの心にもいいですよね。
いつも悪にとられがちなお菓子だけど、自分がそばにいられないときであっても、彼女たちを幸せにできる大事な存在になるのかもと感じています。
普段から食べ慣れておけば、非常時も「いつもの味」を食べさせてあげられますよね。
ちなみに、西山さんはレトルトを使われますか…?
もちろん使いますよ〜!
レトルトや冷凍食品って、昔は「手抜き」とか「体に悪い」って言われがちでしたよね。
でも今は働くママが増えましたし、栄養価まで気を使った商品もたくさんありますから。
味の面でも、たとえばレトルトカレーをごはんにかけるだけじゃなくて、蒸し野菜にかけたり、パスタを和えたり…使い方ひとつでレトルト感はなくせます。
でも、そうやって味を知っておけば、非常時は簡単な調理しかできなくても「食べ慣れた味」になりますよね。
▲西山さんのInstagramより。
カレーの他には、パスタのソースをよく活用してますよ。
火を通さなくても使えるので、いろいろアレンジを楽しんでます。
この前は、ボンゴレのパスタソースをスープにしてみたんです。
お湯で割ると、ちょっと濃いめの出汁みたいになっておいしいんですよ!
災害時、ありものでなんとかしなきゃいけないシチュエーションになっても、アレンジの引き出しが多いと飽きにくいですよね。
もしもの時のために増やしたはいいものの、賞味期限をよく切らしてしまって。
私はよく、キッチンをトイ・ストーリーの世界に例えています。
トイ・ストーリーのおもちゃ達って、持ち主のアンディがいないときに「ウッディばっかり遊んでもらってずるい」みたいな話をしますよね。
使ってない食材たちって、絶対夜中に愚痴ってるよね、って思うんです(笑)
特に大事な食材って、ついついしまいこんだり、少しずつ使いたくなりますよね。
でも、きっと本人たちは望んでない(笑)
いいものほど惜しまず使う!もったいぶらずに振る舞う!って意識しています。
私も食材たちに嫌われないようにしなきゃ…!
シビアに考えるよりは、食材たちもキャラクターだって思って、楽しく管理しちゃいましょう!
子どもたちにもそういう風に言っておけば、ものを大事にすることにつながりますよね。
怖いけど楽しく練習したい!防犯の話
子どもと離れて過ごしているとき、不安なのは災害のことだけではありません。
不審者対策や迷子対策など、さまざまな「もしも」が私たちの周りを取り巻いています。
家庭の状況やお子さんの行動範囲によって変わる部分ではありますが、だからこそ他のママがどう備えているか気になりますよね!
編集部をざわつかせたヒヤっと話も教えていただきました。
キッズフォンを持たせたきっかけ
防犯についても、もちろん最低限の備えはしているけれど、「その時はその時」ってどこかで思ってる自分もいます。
防災も防犯も、怖がりだしたらキリがないですから。
子どもだけで近所に遊びに行くようなときも、大事なことだけシンプルに伝えています。
「知らない人にはついていかない」とか、ちょっと遠めだったら「携帯持っていってね」とか。
ママ的にはここも悩みどころなんですよね…。
以前は否定派だったんですけどね。
でも、上の子が5歳のとき、東京駅で迷子になって…。
「なんで音の鳴るものを持たせてなかったんだろう!」ってすごく後悔したんです。
帰省帰りで荷物も多くて、下の子を抱っこして、ベビーカーもあるような状態で。
ヘタに動くこともできないし、もう、一気に冷や汗と涙が…地獄みたいな感情でしたね。
でも実は、娘のほうが思ったより大人だったんです。
「ママがいない」って気づいた瞬間、近くのお店の人に「迷子になりました」って自分から助けを求めたらしくて。
それが本当に数秒間のできごとだったんですよ。
ママ側からしたら、そんなスピード感ってもう誘拐しか思い当たらない(笑)
そのときは「人生終わった…」くらいの気持ちでしたけど、怒るに怒れませんでした。
たまたますれ違った警備員さんが、「娘さん、迷子じゃないですか?」って声をかけてくれたんです!
どうしてわかったんですかって聞いたら、「顔がそっくりな子がいたから」って。ほぼ奇跡です(笑)
それまでは「都会の子は携帯持つの早すぎるよ〜」なんて思っていたけど、この件をきっかけにキッズフォンを持たせるようになりました。
やっぱり環境が違うと、必要なものも変わりますよね。
自然の中で遊びながら「大声の練習」を
今年入学した下の子にも、そろそろキッズフォンを持たせようと思ってます。
でも、防犯対策でいうと、叫ぶ練習もさせようかなって。
さらわれそうになったりしたとき、手元で何か操作できるゆとりなんてないはずだから…。
大きい声を突発的に出せたほうが、即効性があると思うんですよ。
以前、子どもが電車で突然倒れたことがあったんですけど…助けを求めたいのに、まったく声が出なかったんです。
叱るときは信じられないくらい大きい声が出るのに(笑)
私も難しいと思います。
親子で、あたたかい時期に自然の中で練習したら楽しいですよね!
距離をとって、「ここまで聞こえるように叫んでみて」とか、なんて言ってるか当てるゲームにしたりして。
遊びを通じて、「自分の喉から、これだけの声が出るんだ!」っていう感覚を学べたらいいですよね。
うるさい!って叱ることのほうが多い(笑)
確かに、災害が起きたあとの生活って、キャンプに近かったと思います。
これからの季節、電気がない中で食事する体験をしてみたり、アイテムの使い方を知ってもらえるといいですよね!
うちも夏休みにチャレンジしてみようかな。
最初はカタコトでもいい!手話を発信する理由
たとえば避難所で耳の不自由な方がいたときに、とっさに手話ができたらいいな…と思うんですが、なかなか踏み出せなくて。
少しでも覚えておきたいのですが、教えてもらえますか?
その状況だったら、「どうしました?」「大丈夫?」や「何がほしいですか?」、教えてもらったあとの「わかりました」などができるといいかもしれませんね。
▲動きを教えていただきました!
実際に手話で声をかけるのは勇気がいるかもしれませんが…。
たとえば、外国の方が日本に来てくれたときに、「はじめまして」の一言だけでも日本語を使ってくれたら嬉しいですよね?
知っている手話をちょっと使うだけでも、安心してもらえると思いますよ。
はい!私自身の勉強にもなっているし、TikTokを見てくださった聴者の方も「ちょっとやってみようかな」って気軽に思ってくれたらいいなと思っています。
実際に耳の不自由な方とお話できる機会も増えましたし、手話詩を通してかつての恩師と偶然繋がれたこともあって、いろいろなご縁を感じています。
これからも手話詩の発信は続けていきたいですね。
だから、手話に対して親近感がわいてくるというか…いろいろな境遇の方に想像を働かせるきっかけにもなりました。
未来が不安でも、今に後悔がないように
1時間先も、1日先も…見えない未来に不安と怖さがいっぱいですが、何があっても過ごした今に後悔がないように、あたたかく愛を与えられたらいいですよね!
今回教えていただいたアイディアをまとめてみました。
- 子どもの発想の引き出しができるような会話をしてみる
「もしものとき、自分がお菓子を一箱だけ持っていたらどうする?」など - 留守番を嫌がる子は、留守番=楽しい時間に変えてみる
「お留守番中は好きなだけゲームをやっていい」というルールにしてみる、など - 食の備えは、「お菓子」からスタートしてみる
もしもの時にそばにいなくても、日常の喜びを感じさせてあげられる - レトルトも味方につけてみる
アレンジして楽しめば、罪悪感なく「食べ慣れた味」の備えに - ストック管理はトイ・ストーリーにたとえてみる
食材をキャラクター化してみると、楽しく続けられる - 大きな声で叫ぶ練習をしてみる
自然の中でアウトドアも楽しめば、防災教育にも◎!
大変な時期のお話も、明るい笑顔で語ってくださった西山さん。
もしものときも後悔なく過ごせるように、できることから少しずつ備えを進めていきましょう!