台風や大雨、ゲリラ豪雨、津波などによる水害後の掃除・片づけは、想像以上に大変です。
台風への備えをしっかりしていても、浸水などの被害自体をなくすことは難しいものです。
水害直後は、水道機能が麻痺していることも多いため、流れ込んだ土砂や汚物の混じった汚水を取り除くのも一苦労ですし、濡れた家具や畳などはずっしり重くて運び出すのも大変。
長期に渡って力仕事や精神的にもキツい作業が続く水害被害は「自分たちだけ」でなんとかしようと思ったら自滅してしまいます。
知人やボランティア、行政、業者などの力も借りて、ゆっくり焦らず、ときどき息抜きもしながら、元通りの暮らしを手に入れるため、少しずつ進めていきましょう。
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この記事の目次
水害の掃除・片付け時の服装と装備
地震の後片付けの身支度については以前、記事でご紹介しましたが、水害被害が出たときはその身支度以上に安全に気を配ったものにしなければなりません。
ポイントは、足元と手元のガードと、粉塵・感染症を防ぐことです。
水害後の掃除には、マスクが必須!
水害被害後、水が多少引いて片付けができる状態になってくると、家屋に流れ込んできた泥や砂、汚物などは乾いて空気中にも舞い上がります。
片付け作業をすれば、なおさらほこりが立つ中に身を置くことになりますが、そうした空気中には有機物やカビなどの「有機粉塵」も含まれています。
これを吸い込むと、もともとアレルギーや喘息などの持病がある人は、発作が出たり症状が悪化する可能性があります。
健康な人ものどの調子を悪くすることもあり、健康に悪影響を与えますから、水害後はマスクの常用が必須。
とくに、片付け作業を行う場合は必ずマスクを着用しましょう。
装着するマスクは、できれば粉塵をブロックする効果の高い、「粉塵マスク」「防塵マスク」という表記のある普通のマスクより高機能のものがおすすめです。
なかなか入手できないときは、普通のマスクの上からタオルなどを口元を覆うように頭の後ろで縛るなどして、可能な限りホコリを吸い込まないようにしましょう。
防塵マスクのつけ方は、普通のマスクの装着法とはかなり違います。
マスクに添付されている取扱説明書をしっかり読んで、その通りに装着してください。
粉塵をマスクでガードするためには、直接空気が入り込まないようにすることが何よりも重要。
装着後はマスクと顔の間にすき間がないか、確認しましょう。
マスクを装着したら、マスク全体を手で覆い、息を強く吐いたり強く吸ったりします。
このとき、マスクの周りから息が漏れ出ていないか、空気が入り込んでこないかをチェックし、顔に密着していないと感じたら、再度マスクを装着し直しましょう。
水害被災経験のある先輩ママからアドバイス
台風被害で自宅が浸水し、初めて「防塵マスク」を付けました。
最初はつけ方が少し難しいのと、しっかり密着させるので顔に跡がつくのがちょっと嫌でしたが、私にぜん息の持病があると知った知人が「絶対につけた方がいい」と勧めてくれました。
たしかに家の中や周辺は、片付け中はもちろん、その後数か月間、いつも以上にホコリっぽかったので、とくにホコリや粉塵が舞い上がる片付け・掃除の間は防じんマスクを着けて正解だったと実感しました。
通常のマスクだけで作業されていたご近所の方の中には、喉を痛めたり、その後ぜん息を発症された方もいました。
災害後は色々なものが不足しますが、手に入るのであれば防塵マスクを正しくつけて作業するのがベストだと思います。
感染症予防・けが防止のために、手足はしっかりガードする
水害で、窓を突き破って家屋内に土砂が入り込んでいるような場合は、家の中は危険がいっぱいです。
土砂の中にはガラスや陶器のかけらなどの鋭いものが混入していることが多いですし、はがれた板などから釘が飛び出していることも。
ケガを予防するというだけでなく、こうした危険物を踏み抜いてできた傷口から、がれきや土砂に潜む細菌が原因となって、破傷風やレジオネラ肺炎などの感染症にかかってしまうケースがあるので、水害後の掃除中や片付け中にケガをしないように、最大限の注意が必要です。
なお、掃除や片付け中に、万が一、けがをした場合は、直ちに病院で受診して、消毒・破傷風の予防接種など、必要な治療を受けましょう。
水害被災経験のある先輩ママからアドバイス
浸水被害に遭って、掃除や片付けの作業中、主人が手に小さな傷を作りました。
いつもならばんそうこうを1枚貼って終わり程度の小さな傷ですが、しっかり消毒して手当てをしたのに、翌日ものすごく腫れて急いで病院へ。
幸い、破傷風などには感染していませんでしたが、触った土砂や汚水などに潜んでいた雑菌が傷口に入り込んだようです。
けがをすると復旧作業もなかなかはかどりませんし、小さな傷からも命に係わる感染症などの危険があると知って、びっくりしました。
膨大な作業で、つい雑になりがちですが、けが防止だけはしっかりすることをおすすめします。
そのほか、水害の掃除・片付け時の服装・装備
水害被害時の掃除・片付けの服装や装備は、上記のポイント以外は、基本的に地震被災時の片付け装備・服装と同じですので、こちらの記事を参考にしてください。
地震被災後の片付けマニュアル―鉄則は「焦るべからず」十分な安全対策を―
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身支度
道具
- ほうき・ちりとり
- 雑巾
- バケツ
- 洗剤
- ゴミ袋
- 段ボール
- ガムテープ
- 油性マジック・メモ帳
- ドライバー・工具セット
- つるはし・スコップなど
水害被災経験のある先輩ママからアドバイス
被災後、なかなか電気が復旧しなかったので、夕方になると薄暗い中での片付けになりました。
大きめの懐中電灯というか充電式ライトも使いましたが、すごく便利だったのが、昔、登山で使ったミニ・ヘッドライトでした。
伸縮性のあるベルトに小さなライトがついているものですが、頭につけるので両手が自由になるし、ピンポイントで手元を明るくすることができてよかったです。
これは避難中に、料理などの家事をするときにも役立ちました。
水害直後、片付け前にやるべきこと
水が引いて、水害を受けた家の片付け・掃除に取り掛かる前に、いくつかやっておかなくてはならない作業があります。
被害状況を確認し、記録するのは、その後に補償や保険の手続きを行うために必要です。
また、ライフラインの状況確認は、片付けや掃除の作業計画、家に戻るためにも欠かせません。
貴重品を確保したり、水害によって壊れた窓などに応急処置を施して、防犯対策を行うことも、片付けや掃除の前にまず行うべき作業のひとつです。
安全確認
水害時は流れてきたがれきや土砂などによって、電線が切れていたり、ガス管が外れたりしている場合があります。
もし、電気がすでに復旧していて漏電しているときには感電や火災が起こる危険性もありますから、
まずは家の周囲、さらに家の内部も慎重に、そうした危険個所がないかをチェックして入ります。
また、自宅周辺は水が引いていても、避難場所から自宅までの間に水が引いてない道路などがある場合は、迂回するか、家での片付け・掃除作業自体を一時見合わせたほうがいい場合もあります。
浸水している場所を通る際、ふたが外れたマンホールや側溝に気付かず、落ちてしまったり(水といっしょに体も吸い込まれる)、水中の危険物でけがをする恐れがあるためです。
そのほか家屋が崩れる心配がないかどうかなどを、しっかり確かめたうえで家の中に入りましょう。
被害の状況を確認、記録
地震被害の片付けの記事でも触れましたが、片づけを始める前に受けた被害の状況を確認して、写真などに記録することがとても大切です。
携帯やスマホのカメラでいいので、家の外、内部をできるだけ細かく撮影しましょう。
壁に残った水の跡などは、メジャーをあててどのくらいの高さまで浸水したのかわかるようにして写真に撮るとよいです。
水に浸かった家電製品や家具なども、ひとつひとつ写真を撮ります。
泥や汚れが付いている場合は、なるべくそのままで撮影しておきましょう。
これらの記録は、保険請求や行政の補助金申請などの際、役立ちます。
水害で荒れ果てた家を見ると、つい急いで片づけをしたくなりますが、まずは冷静に状況の確認と記録を残すことを忘れないようにしましょう。
ライフライン(水道・電気・ガスなど)の状況確認
水害被害は、侵入した泥や砂、がれきを洗い流すためにどうしても水が必要です。
まずは水道が復旧しているのかを確認しましょう。
電気やガスは、漏電・ガス漏れの心配があるので、一度元栓をしっかり閉めて、各電気・ガス会社に点検を依頼するか、目視で異常がない場合は、必要最低限の場所のブレーカーのみを上げて、慎重にひとつずつスイッチを付けます。
ただし、まだ乾いていない部屋や場所・破損の大きい場所では電気が復旧していても使用はNG。
壁の内部の配線が切れている可能性もありますし、電化製品自体が濡れていることも。
思わぬ感電・漏電の事故を防ぐため、電気の使用は電気会社や専門業者の点検を受けた後がよいでしょう。
持ち出せなかった貴重品を確保
水害被害の場合、床下浸水でも家に戻って通常通りの生活を送るまでには、かなりの時間が必要になります。
一時的に、浸水しなかった2階部分などで暮らす、という選択肢もありますが、完全復旧までには家を空けなければならないことも少なくありません。
また、ボランティアや修理業者など、たくさんの人が家の中に入る機会も多くなります。
防犯のために、避難時などに持ち出せなかった貴重品をまとめて確保し、実家や銀行の貸金庫などに預けておくとよいでしょう。
また、損害保険などの証書も、今後の保険金申請時に必要になりますから、そうした保険関係の証書類などを、まずサルベージしておきましょう。
防犯対策
大きな災害時には、被災によって家の戸締りなどが手薄になったのを狙った空き巣などが起こりがちです。
家の中の片付け・掃除を行う前に、まずは流れ込んだ土砂やがれきによって壊れた窓やドアなどの補修を行います。
ガラスが割れた窓などは、段ボールや板などで覆い、外から簡単に侵入できないように補修します。雨戸が無事なら、雨戸をしっかり閉めておくのもよいでしょう。
また狙われがちなのが、ガレージや物置です。
家の片付けに追われ、つい後回しになりがちなガレージや物置ですが、盗難被害に遭わないように、ドアやシャッターの補修・応急処置はなるべく早く行っておきましょう。
水害時は、掃除や片付けと並行して消毒作業が必要
家に流れ込んだ汚水や汚泥は、雑菌やウイルスがたくさん混じっているほか、建材にダメージを与えたり、湿気でカビを繁殖させたりします。
水害被害後は、自治体による被災地域一帯を消毒する作業も行われますが、自分たちでも掃除や片付けと並行して、消毒作業を行うことが大切です。
自治体によっては、被災後に消毒用の消石灰や、クレゾール石鹸液・逆性石鹸液などを配布している場合もありますから、各消毒薬の使用法が書かれた説明書とともに配布を受けるとよいでしょう。
まずはどこから手を付ける?水害被災時の片付け・掃除の手順
水害の被害に遭った家の片付けや掃除、いったいどこから手を付ければいいのか途方に暮れてしまいます。
また被害の程度によっては、家屋自体のリフォームや再建も必要になります。
被害状況や家庭ごとの事情もありますので、どう片付ける・どこまで補修するかは様々ですが、基本的には、泥や汚水などで汚れた場所・物を水で洗浄し、乾燥させる(並行して消毒する)ことになります。
水害被災後の片付け・掃除の手順を「床下浸水」と「床上浸水」に分けてまとめました。
床下浸水時の掃除・片付け手順
床下浸水の場合、被災直後の家の中には大きな変化がないため「このまま住んでも大丈夫かな」と思いがちですが、水が引いたからといってもすぐ元通りの生活が送れるわけではありません。
雑菌が混じり、カビ繁殖の原因にもなる汚水・泥水などが床下まで流れ込んできたわけですから、しっかりとした後処理が必要なのです。
床下浸水の場合、
- 排水
- 乾燥
- 消毒
の順番に作業を進めていきます。
排水
床下浸水したときは、家の土台がコンクリート製の基礎だったとしても、床下の換気口などから家中の床下に泥水が流れ込んでいます。
近年の住宅の場合、床下がコンクリート仕上げのことが多いので、周囲の水が引いても床下にはたくさん水が溜まっているケースが多いです。
この水を放置しておくと、雑菌やカビが繁殖するだけでなく、強烈な異臭がするため、その真上の家屋で生活することができなくなりますから、まずは排水作業を行います。
家の床や畳、床下収納部分などをはがして、排水ポンプで水を吸い出します。
ボランティアや業者などに排水処理をお願いするか、自力で工業用の排水用ポンプを購入して排水します。
排水ポンプで、ある程度汚水・汚泥を排水したら、基礎部分や床組み、床下地などにも泥や汚れが付着しているので、これらを水道水とブラシなどで洗い流します。
きれいになったら、洗い流した水を再び排水。
排水ポンプで吸い上げられない泥水は、ほうきやちり取り、雑巾、スポンジ、新聞紙などを使用してできるかぎりすくい取ります。
水害被災経験のある先輩ママからアドバイス
床上浸水で、多量の土砂は流れ込まなかったものの、床一面が汚水まみれになった我が家の掃除で活躍したのが、吸水スポンジでした。
雑巾をいちいち絞ってふき取るよりも、たくさん買い込んだ吸水スポンジを床にポンポンと投げて、端からバケツで拾い上げ、一気に水を絞って洗い、また床に置き、を繰り返します。
これで同様の被害があった近所のお宅より、かなり早く床にたまった水を処理することができました。
「なかなかはかどらない」と困っていたお隣にも、作業が終わった我が家の吸水スポンジを貸してあげたら「うちも買っとけばよかった(ホームセンターでは売り切れていました)。助かった」と感謝してもらいました。
普段の掃除でも使えるので、吸水スポンジはいくつか買っておくといいと思いました。
乾燥
床下がきれいになったら、今度は乾燥させます。
できるだけ急いで乾燥を行わないと、カビが繁殖したり異臭が発生したりする原因になるほか、家の土台や建材部分が腐敗する恐れがあります。
扇風機・サーキュレーターを床下に入れて乾燥を促進させます。
ただし、急いで乾燥させようと温風機やヒーターを使うと火災や、木材のゆがみの原因になってしまうので、使ってはいけません。
消毒
乾燥が終了したら、消石灰を床下に撒くなどして徹底的に消毒します。
ただし、床下の汚水処理を自力で行うのは実際のところ、かなり困難です。
床をはがすのにも専門の器具や知識・経験が必要ですし、その後の排水・洗浄・乾燥作業、消毒まで完璧に行うとなれば、やはり建材店など専門の業者に依頼したほうが無難でしょう。
これらの作業の後、めくった床や畳などを元通りにすれば、ひとまず作業は完了です。
床下の排水や洗浄、乾燥、消毒などは、すべての作業を終えるまでに少なくても1か月、天候や季節、地域などによっては3か月以上かかる作業になってしまうこともあります。
長期戦を覚悟して臨みましょう。
床上浸水時の掃除・片付け手順
床下浸水よりもさらに被害の大きい床上浸水の場合は、床下の作業に加えて室内や家財なども掃除や除菌、処分を行う必要があります。
まずは床下の作業同様、汚水の排水→床や家具・家財などの洗浄→乾燥・消毒という手順で進めていきますが、洗っても再利用が難しいものも多いので、廃棄のために処分するものを運び出す作業も加わります。
排水・汚泥の除去
家の中に流れ込んだ土砂や汚泥、がれきなどは、バケツやスコップを使って取り除きます。
汚水だけが入ってきた場合は、ゴムなどが付いているゴム製モップや吸水スポンジ付きのモップなどで吸い取ったり、室外へかき出します。
ある程度、汚水や土砂などが除去出来たら、水を流しながらスポンジでこすったり、雑巾などで拭いて汚れを取ります。
床の汚れ、木製家具などについた汚れは、1度拭いた程度ではなかなか落ちません。
根気強く、何度も水洗いと水拭きを繰り返しましょう。
なお、床上浸水した時は、壁の素材の石膏ボードや内側に入っている断熱材などにも水が入っている可能性があります。
これを放置するとカビや雑菌が繁殖しますから、工務店など専門業者に点検してもらい、必要なら床下同様、壁内の洗浄や乾燥、消毒、そして石膏ボードや断熱材の交換などをおこないます。
使用できなくなった家財・家電類の処分
浸水被害に遭った家電類の多くは、故障して使えなくなるようです。
不用意に電源を入れると、漏電・感電の危険がありますから、電化製品については必ず電気店などに依頼して、安全かどうかを確認してもらってから使用しましょう。
使用できないものは運び出し、それぞれ自治体の指示に従って廃棄処分します。
memo
ただし、エアコンの室外機やエコキュートなど、室外で使用することを想定した電気機器の場合は、きれいに洗浄して乾燥させるとかなりの確率で復旧するのだとか。
まずはメーカーや販売元、製品の相談窓口などに相談をしてみてください。
メーカーで対応してくれない場合は、町の電気屋さんや電気工事の知識がある便利屋さんなどに依頼すると、引き受けてもらえることも多いようです。
木製のタンス・棚などは、しっかり洗浄・乾燥させてもカビたり板が反ったりして使えないことが多いようです。
また木材の繊維の内部に汚水がしみ込んで、悪臭が取れないということも。
こちらも再使用できないものは、処分が必要です。
また、畳は1度浸水してしまうと再利用はほぼ不可能。
はがして屋外に運び出すのも一苦労ですが、しっかり洗浄して乾燥、消毒しても、後日内部でカビや雑菌が発生・繁殖すると健康被害を起こすので、廃棄したほうがよさそうです。
再利用可能な家財道具の洗浄・消毒
スチール製(さびてない場合)、プラスチック・合成樹脂などの家財は、しっかり汚れを落として拭き上げ、消毒することで再利用ができます。
アイテム別の消毒法についてはこのあと、詳しく説明しますが、再利用するどの家財についても、しっかり洗浄して完全に乾燥させ、徹底的に消毒することが重要です。
床上浸水の場合は特に、素人だけで復旧するのは至難の業です。
ボランティアや行政の支援・協力を依頼し、業者などの力も借りて行いましょう。
作業が長期間にわたり、専門知識や専用の道具類も必要な水害被害の片付け、掃除は、自分たちで行おうとするのは、作業的にも無理があるほか、精神的・体力的にも疲弊が激しいので、おすすめしません。
困ったときはお互いさま、受けたご恩は、次の災害時にボランティアなどでお返しすると心に決めて、救いの手をありがたく借りる心がけが大切です。
水害被害を受けたアイテムの処分・再利用のポイント
浸水した家財道具はどれも愛着があり、捨てるのはつらいものですが、苦労して洗っても再利用できないもの、無理に使うと健康に害が出る恐れがあるものは、思い切って処分しなければなりません。
どのようなものは処分すべきで、どんなものなら再利用できるかを見ていきましょう。
水に浸かった布製品は、基本的に処分
たたみのほか、インテリア・衣類などの布製品も目の奥に入り込んだ雑菌などを完全に消毒するのが困難なので、廃棄処分します。
とくに小さい子供がいる家庭では、今後の家族の安全のためにも、もったいなくても処分したほうがよいでしょう。
取っておくものに関しては、クリーニング店に浸水したことを告げて処置を依頼するか、煮洗いするなどしてしっかり洗浄・消毒し、乾燥させて保管することが重要です。
本などの紙類
紙類は、乾いた後もデコボコになってしまいます。
証書類や写真、どうしても取っておきたい書籍や手紙などは汚れを落とし、消毒して乾燥させ、保管しますが、やはりカビや雑菌の繁殖が心配なので、また買い直せるものなどは思い切って処分を。
子供の絵本などは表紙から全ページを写真に撮って、デジタルで保存するのもおすすめです。
大切な写真は、水でそっと洗い、日陰で乾燥させて保管を。
notice
ただしこれは写真店などでプリントしてもらったものに限ります。
家庭用のインクジェットプリンタなどでプリントした写真は、水で洗うとにじんだり流れてしまうこともあるので、ティッシュなどでできる限り汚れを取り除いたら、そのままスマホやデジカメで複写撮影するとよいでしょう。
写真修復ボランティアを行う団体もありますので、そうした団体に相談してみるのも、ひとつの手です。
食器・調理器具
陶器やガラス、プラスチック、金属性の食器や調理器具は、流水で汚れを落とし、食器洗い洗剤でしっかり洗った後、台所用の塩素系漂白剤や次亜塩素酸ナトリウムなどを溶かした水桶の中に付け込んで、その後水でゆすぎます。
スプーンやフォークなどの金属類は、塩素系の消毒液に弱いので、鍋でお湯を沸かし、沸騰させた中に投入して、1分以上煮沸消毒するのがおすすめです。
ただし、ザルやまな板などの竹・木材を使ったものが浸水した場合は、感染症予防のためにも、使用は諦め処分して、新しいものを購入します。
洗浄・消毒した食器・調理器具を拭き上げる布巾類も、浸水したものは廃棄して、洗濯・消毒したものを使います。
子供のおもちゃ・装飾品
汚水に浸かったぬいぐるみやフェルトのおもちゃなどの布製品は、残念ですが廃棄処分にします。
中綿にしみ込んだ汚水には、子供の健康を脅かす雑菌・カビを繁殖させる危険度が非常に高いからです。
木製の積み木なども完全に水に浸かってしまったら、基本的には処分を。
表面に防水加工がしてあるようなものなら、しっかり洗浄し、拭きあげて消毒する方法もありますが、おもちゃを口に持っていく年ごろの小さな子供の場合は、与えない方がよいでしょう。
プラスチック製などのおもちゃは、洗浄・消毒すれば使うことができますが、細かな部品がある場合は、部品の裏までしっかり消毒してから子供に使わせるようにします。
食品
直接、体内に入れる食品類は、基本的に包装されていても汚水に浸かったら食べないようにしましょう。
密閉性の高い、缶詰やレトルト類は、外側をよく洗って、開封する部位を台所用塩素系漂白剤を含ませた布などで拭いてから開けて使用できます。
ただ、汚水が接した包装部分を手でつかみ、その後、その手で調理することを考えると、慎重になったほうがよさそうです。
台風などで浸水被害が考えられる場合は、ちょっとした浸水でも汚水に触れてしまうような低い場所に食料を保管しないことが大切です。
とくに、台所に床下収納庫があって、そこに食料を保管している場合は、台風が来る前に、食料を高い場所に移動して保管するように心がけましょう。
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特に注意したい水害被災時の掃除のポイント
作業全体を通して、気を付けておきたいポイントを紹介します。
洗面所などの水回り・浴室
水道が復旧すると、洗面所や台所など水が汲める場所を頻繁に利用します。
バケツにためた汚水を流したり、汚れた雑巾やスポンジも洗う場所になるので、こまめに消毒するのを忘れないようにしましょう。
希釈した次亜塩素酸ナトリウムをスプレーに入れて常備しておいて、汚水を流したり雑巾などをあらったときは、きれいな水を流した後、シュッと周囲に吹きかけるのを習慣に。
水撥ねは、思った以上に広範囲に飛び散るので、それを想定してスプレーをしましょう。
また、浴室が浸水した場合、ガス窯やお湯が出てくるパイプ内にもレジオネラ菌などが付着・繁殖しやすいので、浴槽や浴室の洗浄・消毒と同時に湯釜内部もしっかり洗浄しましょう。
最初にお風呂にお湯を張るときは、浴槽に次亜塩素酸ナトリウムを溶かした水を張った状態で沸かして循環させ、消毒した後、もういちど水で流してからお風呂を沸かすようにすると安心です。
水害後、掃除機を使うのは完全に乾いた後で
砂や土砂などを掃除機で吸い込んで片づけると、掃除機内に雑菌やカビが繁殖する可能性もあるので、災害直後の片付けに掃除機を使ってはいけません。
掃除機にはフィルターがついていますが、雑菌を含んだ細かい排気が排出されたり、廃棄によって床のホコリが空気中に舞い上がるのも心配です。
被災後、浸水した部屋での生活が再開されても、可能な限り雑巾がけや、紙パッドを使うモップなどで床を拭くことを繰り返し、掃除機がけはしばしお休みするほうがよいかもしれません。
消毒液は使用場所に応じて適した濃度で使用する
自治体から配布される消毒液や、普段使い慣れていない消毒液は、使い方を迷いがちです。
製品のラベルには、使用上の注意や、消毒する場所・部位によって希釈の割合が表示されていますので、それを正しく守りましょう。
ここでは、水害時によく使われる「逆性せっけん」と「次亜塩素酸ナトリウム」「エタノール」の使い方について、確認しましょう。
水害に遭ったとき、業者にお願いすることしないこと
水害被害には様々な程度がありますが、たとえ床下浸水だけでも、掃除は非常に大変で手間も時間も費用もかかります。
そして、その割には加入している損害保険では修理、補修、片付けの費用がカバーできない(保険金が少ししか出ない)ことがあるのも、水害の大きな特徴です。
しばらくしたのちに内部のダメージが大きいことがわかったり、後からカビの発生や異臭が気になって、結局、建て替えやリフォームが必要になるケースもよくあります。
ねん出した費用を無駄にしない、不要な出費を抑えるためにも、被災後はボランティアセンターや自治体の相談窓口で、どこまで手伝ってもらえるか、どの部分を業者に依頼すべきか、相談してから作業や業者手配を行うとよいでしょう。
賃貸の場合は、大家さんや不動産屋に相談を。
持ち家に業者を入れる場合も、家を建てた工務店やハウスメーカーなどに相談しましょう。
各専門業者を手配して補修を行う場合と、リフォーム・建て替えを行う場合の費用を見比べるなどしっかり検討してから、依頼をすることが大切です。
また大きな災害時には、法外な費用を要求したり、手抜き施工を行う詐欺まがいの「業者」も多数出没しますから、飛び込みで営業に来た業者に飛びつくのではなく、できれば数社から見積もりを取ったうえで修理・補修などを依頼するのが正解です。
水害被災経験のある先輩ママからアドバイス
夫の実家が台風による水害で床上浸水し、あわてて手伝いに駆け付けました。
夫と「とても住めたものではないから、一度別の場所に仮住まいして、工務店できちんとリフォームした方がいい」と勧めましたが、当初夫の両親は「この家には愛着があるから、なんとか自分たちで片づけて、このまま住みたい」と。
義理の両親は高齢ですので、作業の中心は私たち。
必死で片付けなどを行い、義母が「捨てたくない」といった布製ソファなども何度も水洗いして、なんとか住める状態になりましたが、半年くらいして「やっぱり臭いが気になる。カビなども心配なので、工務店に頼んで抜本的に家を修復する。家具も買い替える」ということになってしまいました。
工務店の営業さんによると、高齢者は環境が変わることを嫌がって、被災直後は「できる範囲の補修」で済ませようとしがちなのだそうです。
やはり、最初の段階で、専門家や自治体のアドバイスを取り入れて、どのように作業を進めて、業者にどの程度の補修をお願いするのかをしっかり見極めた方がいいと痛感しました。
水害被害時は、子供に片付けや掃除をさせない!
被災後の片づけ、とくに水害の片づけは時間も手間もかかって大変です。
人手はあればあった方がいい、とつい小中学生の子供にもお手伝いを頼みたくなってしまいますが、水害被害時は、子供に片付け・掃除をさせてはいけません。
子供は有毒物質にさらされた場合、大人以上に深刻な健康被害を受ける可能性が高いためです。
また小さな子供は好奇心から周りの物を触りたがる傾向があるため、片付けを手伝わせないようにするだけでなく、片付けや消毒が完了するまでは被災地周辺にはなるべく連れて行かないようにした方がよいのです。
体力が十分にある小学生高学年くらいの子供でも、しっかり正しくマスクを着け、小さなケガまで注意を払って作業するのは難しいでしょう。
水害被害の片付けのときは、実家や知人、託児所、避難所などに子供を見てもらい、大人だけで自宅に戻って作業するようにしましょう。
まとめ 安全な服装・装備と、作業前の計画作り・相談が重要
水害の後片付けや掃除は、他の災害にない苦労が付きまといます。
他の災害よりも高い感染症などのリスク、流れ込んだ汚水・汚泥の処理と乾燥、そして消毒。
水に濡れて重さが増した畳や家具、布製品の運び出し。
被害地域一帯を覆う、下水や腐敗物の臭いと消毒薬特有の臭い…などなど。
長期に渡るひどい環境下での作業は、精神的にも肉体的にもストレスが大きいので、自分たちだけで片付けよう、復旧しようと頑張りすぎず、誰かが助けてくれる部分は素直に頼ってお願いする姿勢が重要です。
また、やみくもに片付け作業に入るのでなく、快適な暮らしを取り戻すために家の立て直しや大規模なリフォーム修理が必要なのかどうか、専門家に相談し、作業計画をしっかり練ることも重要です。
子どもたちとの明るい毎日を取り戻すためにも、ママやパパが、災害後の片付けで精神的にダメージを受けては元も子もありません。
ときどきどこかに出かけて楽しんだり、ゆっくり休める休養日を取って、息抜きしながら少しずつ、でも確実に作業を行っていきましょう。